2009年9月13日日曜日

リーマン・ショック1年…懲りないウォール街

活気を取り戻してきたウォール街。金融危機の記憶は薄れ、観光客が訪れる「名所」に(ニューヨーク証券取引所前で)
 米大手証券リーマン・ブラザーズが経営破綻(はたん)し、世界経済を戦後最大の危機に追い込むきっかけとなった「リーマン・ショック」から15日で丸1年。金融危機の反省を生かし、世界経済は持続的な成長を取り戻せるのか。
 「新しい役所が増えても非効率なだけです。消費者金融保護庁の創設法案を廃案に追い込みましょう」
 9月8、9日、米金融業界の有力ロビー団体「金融サービス円卓会議」の首席ロビイスト、スコット・タルボット氏(41)は、再開したばかりの米議会近くで、金融関連法案の審議に影響力を持つ上下両院の議員8人と個別に会合し、説得工作を繰り広げた。
 「円卓会議」はJPモルガン・チェース、シティグループなど米金融大手をはじめ97社から会費を集めて運営されている。タルボット氏は文字通りの「ウォール街の代弁者」だ。
 米財務省が目指す保護庁の創設は、リスクのある金融商品から消費者を守るための金融規制改革の中核と位置付けられている。
 米国では、住宅バブルを背景に、住宅ローン会社やブローカーが返済能力のない低所得者に高金利の住宅融資「サブプライムローン」を貸し込んだが、2006年夏を境にバブルが崩壊。ローンが次々と焦げ付き、金融危機の火種となった。
 保護庁は、こうした金融商品が二度と出回らないよう目を光らせることになる。
 だが、金融業界や産業界は強く反発している。タルボット氏は「行き過ぎた規制で普通の金融商品しか売れなくなれば、金融機関のもうけが減り、米金融業界の国際競争力が低下してしまう」と訴える。
 「9月は新聞広告。その後は、テレビやインターネットでも広告を打つ」
 ワシントンにある米国最大のロビー団体「米国商工会議所」のオフィスには今夏、「保護庁つぶし」で大同団結した23のロビー団体代表者が集まり、広告戦略に200万ドル(約1・8億円)の拠出を決めた。
 来年の中間選挙をにらみ、「円卓会議」は有力議員20人に1000~2500ドルの献金もした。保護庁法案は下院の審議が始まったが、早期成立は微妙な情勢だ。
 複数の米大手金融機関は6月以降、「安全性を高めたCLO(ローン担保証券)を担保にした金融商品」の売り込み攻勢を始めた。この金融商品は、ローン債権の信用度が高い部分だけを集め、「格下げリスクを減らした」のがセールスポイントだ。
 しかし、CLOはサブプライム関連の不良資産を組み込んでいたため価格が急落、損失を世界中にばらまくことになった証券化商品の一つだ。日本の金融機関は「あれだけの危機の直後なのに、同じような商品をもう売ってくるのか」と米銀の商魂に目を見張る。
 バブルを促したと批判された金融機関の高額報酬も復活している。4~6月期決算に、リスクをとった投資業務で過去最高の純利益をあげたゴールドマン・サックスは、年末のボーナス用に66億ドル(約6000億円)を積み立てた。社員1人あたり3か月間分として22万ドル(約2000万円)を受け取る計算だ。
 リスクを軽視し、目先の利益を優先した経営が、バブルとその崩壊を招いた。その反省がウォール街では早くも薄れようとしているかに見える。(ニューヨーク 山本正実)
(2009年9月14日01時23分 読売新聞)

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