2011年4月24日日曜日

金のつぶやき金1500ドル史上最高値、7つの理由 2011/4/24 0:00

金価格はついに1500ドルをつけた。その背景には7つの要因がある。

1. 有事の金 リビア、フクシマと国際的有事が勃発し、地政学リスクが高まる中で、リスクを回避し相対的な安全性を求めるマネーが実物資産の代表格である金に流入した。

2. インフレ リビア情勢の緊迫は原油高を引き起こし、新興国需要の高まりは穀物などの資源価格を押し上げ、新興国ではインフレ懸念が拡散。さらに先進国にも波及しつつある。また、先進国では量的緩和政策により通貨供給量が急増。貨幣価値が希薄化することによる資産インフレの兆候も出始めた。そこでインフレヘッジとして金が買われている。

3. 通貨不安 今回1500ドルをつけた決め手になったのが、米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による米国債見通しの弱含みへの引き下げだ。にわかに米ドルに対する信認低下が加速した。
 しかし、2011年に入ってからの金とドルの関係を検証すると、ドル高の局面でも金が上がっている。ドル高ということはユーロ安、円安ということで、財政危機を抱えるユーロに対する不安感が高まり、また震災後は円への不信感も募っているのだ。
0 そこでドル、ユーロ、円がそれぞれに構造的問題を抱え“弱さ比べ”を演じるという通貨不安が拡大する中で、金が“無国籍通貨”として浮上している。通貨の原点回帰ともいえようか。これまでのようにドル安で代替通貨として金が買われるという単純な公式が当てはまらず、新たな局面を迎えているのだ。
 ユーロに関していえば、トレーダーたちは金利差要因でユーロを買うが、投資家たちは相対的にユーロ高になっても構造的要因によりユーロ不安を募らせている。

4. ソブリンリスク 従来、安全資産の代表格であった国債が日米欧いずれの地域においても財政規律の緩みにより不安視され始めた。特にギリシャ、ポルトガル国債は債務再編、デフォルトの可能性さえちらつく。
 そこで安全性を求めるマネーが、国債から金、スイスフランなどへシフトしている。実際、筆者のゴールドセミナーで最も頻繁に発せられる質問が「日本国債は大丈夫か」ということなのだ。
 リーマンショック後は株から金へのシフトが顕著であったが、2011年は国債を売って金に乗り換えるというリアロケーションが目立つ。金は発行体の無い無国籍通貨ゆえ、ソブリンリスクはゼロなのだ。

5. 新興国需要急増 2010年はインド、中国の2カ国が年間の金生産量2600トンの6割近くを買い占めた。両国の買いは、NY(ニューヨーク)のファンドが先物で売り込み、価格が急落したところを徹底的に拾ってゆくという形。ゆえにバーゲンハンターと呼ばれる。
 2011年1月にも金価格が1300ドルすれすれまで急落したが、中国の個人投資家がインフレヘッジ目的で大量の現物買いをした。これが一時は現物供給不足を起こすほどの規模となり、結局、NY先物売り攻勢を押し切った。この例に見られるように、新興国の買いはレンジの下値をガッチリとガードする効果を持つ。特に中国の買い支えは“鉄板”である。中国人民銀行は利上げを繰り返しているが、金価格は上昇している。人民が金を買うのは、金融政策への不信感の表れともいえよう。

6. 中央銀行の金買い 1990年代に金価格を250ドルにまで押し下げた最大の要因は、欧州各国の中央銀行による金大量売却であったが、2010年は中央銀行部門が買い越しに転じた。
 これはBRICsの中国、ロシア、インドなどが、膨張する外貨準備の中の米ドルの一部を金にシフトさせているためだ。年間500トン程度は売却していたので、それがマイナスの売却量(=購入)に転じたことが需給バランスを逼迫させている。
7. 新産金量の伸び悩み 金価格は過去10年間で5倍以上に上昇したが、世界の金生産量は1割程度しか増えていない。もはや海底など過酷な自然環境の中にしか有望な金鉱脈は残っていないので、新規鉱山開発案件が一向に上がってこないのだ。さらに生産コストも800ドル以上となり、この10年で3倍近くに急上昇している。
 以上の要因はいずれも根の深い構造的要因であり、それらが7つ絡み合って複合要因となっているので、持続性のある上昇トレンドが形成されている。毎日、日替わりメニューのごとく入れ替わり、7つの中の1つ2つから新規材料が出てきているのだ。 では、下げの要因は何が考えられるだろうか

1. リビアの電撃的和平などが実現すれば原油価格も急落し、つられて金価格も下がるだろう。

2. 量的金融緩和/が予定通り6月末に終了すれば、過剰流動性を織り込んだ相場には失望感から売りが先行するだろう。さらに金融政策の正常化から踏み込んで引き締めへの転換、利上げなど、いわゆる出口戦略が発動されれば、金利を生まない金は売られよう。しかし景気が好転すれば物価も上昇するので、実質金利マイナスという状況が続けば金価格の本格的下げとはならない。

3. そこで本当に金が下がる状況は、いわゆるゴールディロックス(適温経済)の実現。熱すぎてインフレにもならず、冷えすぎてデフレにより破綻リスクが高まることもなければ、マネーは株、債券に回帰する。米連邦準備制度理事会(FRB)議長のバーナンキ氏が出口戦略を成功させるシナリオだ。ゆえにバーナンキを信じるのなら、金は売りである。
4. 最後に金特有の要因として、リサイクルを挙げておかねばならない。金は腐食しないので金製品などが高値に誘われて市場にリサイクルとして還流してくる。その量は2009年、2010年と1600トン台に達し、過去最高水準。“金・プラチナ買います”と記したのぼりが全国で見られるが、これは世界的現象なのだ。このリサイクル還流は供給増を意味するので、価格上昇にブレーキをかける。
 比較すると、原油は燃えて消えるのでリサイクルがなくブレーキが利かず、値動きが軽く10倍に跳ね上がったりする。その反動の下げもきつい。その点、金は値動きが重いともいえるし、安定的ともいえる。
 以上、本コラムの第1回では、金市場に何が起こっているのかという最新情報をまとめてみた。これから毎週更新してゆく。

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