政府が1955年、原発を導入するために初めて派遣した海外調査団の報告書が、
原子力委員会の設置を推進する内容に偽装されていたことがわかった。
作成に関与した旧通商産業省の初代原子力課長(故人)の偽装を認める証言が、
文部科学省の内部文書に記録されていた。
文書は85~94年、日本の原子力行政の重鎮で、原子力局長や原子力委員を務めた
故・島村武久氏が、
原子力政策にかかわった政治家や官僚、学者など33人を講師として招いた「島村研究会」の録音記録。
A4判620ページにわたって文書化され、文科省が製本したものを朝日新聞が入手した。
政府は54年12月、初めての原子力予算で、物理学者を団長とする
15人の「原子力平和的利用海外調査団」を派遣。
4班に分かれて米英仏やインド、スウェーデン、デンマークなど14カ国を巡り、
原子力行政の組織体制を調べた。
調査団は帰国後、原子力を推進・開発する政府の機関について
「各国の統括機関はほとんどすべて委員会の形をとり多頭。
各方面の意見を十分に入れるためと思われる」と報告書に明記して、
集団指導体制による委員会の設置を日本でも急ぐよう提言した。
事務局として作成にかかわった旧通産省工業技術院原子力課の初代課長の故・堀純郎氏は
88年、「島村研究会」に招かれ、
「(トップに)委員会をつくっているのは米国だけで、ほかにはどこもない」と指摘。
フランスは「役所」、イギリスは「公社」だったにもかかわらず、「(諸外国は)どこでも委員会だ。
だから日本でも委員会を作らなくちゃいかんと強調した」と偽装を証言した。
さらに「若い事務官がこんなうそ書けるかと憤慨した」とも証言し、
のちに資源エネルギー庁次長となる豊永恵哉氏が偽装に抵抗したことを明らかにした。
豊永氏は朝日新聞の取材に「委員会は米国にしかなく、責任があいまいになり、
日本になじまないと思った。
むしろしっかりした行政組織を作るべきだと上司に進言した」と話す。
政府は報告書をもとに原子力委員会を56年に発足させ、
初代委員長に正力松太郎国務相、委員にノーベル物理学賞の湯川秀樹氏、
経団連会長の石川一郎氏らを起用。
著名人を集めた委員会を設け、
米国の水爆実験で「第五福竜丸」が被曝(ひばく)した事件による
原子力への世論の逆風を弱める狙いがあったとみられる。
政府が公表した報告書の偽装は、原発導入期からの隠蔽(いんぺい)体質を示すものだ。
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